そんな中、突然に「こんにちは」と男子高校生が二人、ニコニコと笑いながら園の玄関に現れた。「あら?O君とM君ね?」と話がはずんだ。高校三年生で夏期講習の合間をぬって来たという。「あんたは美和台新町に住んでいたよね。お母さんは母の会の役員さんをしてくれたのよ。」「あんたは美和台三丁目に住んでいたよね。お姉ちゃんはKちゃんだったよね。弟はT君だったね。」私は突然の訪問が嬉しくて矢継ぎ早に話しかけていった。
すると私の話しかけをさえぎるようにしてM君が「園長先生、僕、やばいです。」と言いだした。「卒園してもう十何年もたつのにこんなに僕たちのことを覚えてもらっているなんて・・涙が出そうです。」実際に二人とも涙を浮かべていた。
「卒園生のことを忘れたら幼稚園の先生じゃ~ないとよ。」と、私も偉そうに二人の頭をなでた(といっても私よりもぐ~んと身長が高い二人である。ちょっと飛び上がって叩いた・・という方が正しいかも知れない)
そこへ当園の男性職員が通りかかった。「あれ?O君とM君?」二人はまたまたビックリ!大感動!である。受験勉強、勉強でちょっと息抜きと新しい園舎も見たかったという二人。それからは「幼稚園の中をみていいですか?」と二人で園内探索をしていた。
目標の大学は二人とも「九州大学」という。地元では「九大」の名称で通っている。かなり勉強をしないと合格は難しいといわれる国公立の大学である。
夏休みとはいえ、勉強・・頑張っているんだろうな・・と想像がつく。そういえば私も受験の経験はある。私の場合は高校受験で私立に受かったので公立の受験の経験無し。大学は付属でそのまま進学出来たので受験無し。後は就職試験を受けたのみで人生で受験の経験は二回しかない。(今頃になってもっと勉強しておくべきだった・・と後悔の日々である)私の事はさておき、二人が帰り際に「園長先生、ありがとうございました。また遊びに来ます。」と来た時以上に笑顔で挨拶をしてくれた。何だか自分の家に里帰りをしてきた!と言わんばかりの笑顔だった。見送る時に「いつでも帰っておいで」とそっと心の中で声をかけた。楽しい一時、幼稚園の先生になってよかったと思えた瞬間であった。